理念を起点にブランドパートナーを集めるTeach for Americaのソーシャルビジネス

「ソーシャルビジネス」というキーワードは最近、日本でもよく聞くようになりました。

経済産業省(METI)によると「地域社会の課題解決に向けて、住民、NPO、企業など、様々な主体が協力しながらビジネスの手法を活用して取り組むビジネス」を指し、社会や環境課題に目を向ける人やビジネスが増え、今後の活性化が注目されている領域です。

しかし、日本においては、ソーシャルビジネスのあるべき姿や事業としての考え方が明確に世の中に伝わっていないため、様々な誤解が生じているようです。

「協賛や資金提供はあくまで提供側の意志によるもので、運営側が積極的にお願いするべきではない。」

「NPOは利益を生み出さずに、ギリギリの運営資金で活動しなければいけない。」

「ソーシャルビジネスは運営側のボランティア的な善意や努力によって成り立つもので、ビジネスではない。」

上記のように、ソーシャルビジネスをボランティアや社会福祉活動の一種だと誤解をしてしまっている方も多いように感じます。

そこで、今回はソーシャルビジネスにおいて、すでに実績を出しているアメリカの教育支援団体Teach for America(以下TFA)のモデルケースを通じて、この団体がどうやってアメリカの抱える社会問題解決をビジネスにしていったのかをご紹介していきます。

TFAとは、大学卒業後の新卒者を最低2年間、アメリカ各地の教育困難地域にある公立学校に講師として赴任させるプログラムを提供している団体です。アメリカ社会が抱える高所得地域と低所得地域の教育の質の差、何千人もの教師不足という大きな課題を解決しようと、1989年にウェンディ・コップが立ち上げた団体です。

出展:https://www.teachforamerica.org/life-in-the-corps

創業から30年経った現在、TFAは素晴らしい実績を残しています。TFAを卒業した60,000人以上のアルムナイが教師としての経験を持ちながら、教員や校長先生、教育関係の政府職務など、教育に関わる様々なポジションで活躍しています。

2014年には、グーグルやアップルなど大手企業を抜いて、全米文系学生が就職したい企業ランキング1位にも選出されました。さらに資金面でも、200ミリオンドルの寄付を毎年受けているとのことです。

さらにアメリカでの成功がきっかけとなり、TFAは世界34か国の組織と連携し、Teach For Allとして他国にも活動を広げています。

出展:ウェブマガジンDRIVE(https://drive.media/posts/7316)より

TFAは既存の教育システムを覆す存在として生まれたため、運営方針や手法に関して賛否両論が別れます。しかし、非営利団体でありながらも、長期的なインパクトを残すために必須な人や資金を上手に巻き込んでいくその運営スタイルは、関わる人々にとってのWIN-WINの関係を生み出す持続可能なソーシャルビジネスの一つの答えのように見えます。

それにしても、なぜTFAはここまでの成果を出すことができたのでしょうか。TFAの歴史を振り返る中で見えてきたものは、力強い理念に共感して集まってきた熱狂的なファンのネットワークと、ファンとのブランド共創。この2つのポイントに注目をしながら、TFAの活動を紐解いていきます。

1:ブランドを育てるために、なぜブランドパートナーが欠かせないか

TFAのストーリーを振り返る前に、TFAの成功理由の一つである「ファンベースマーケティング」という考え方をご紹介します。TFAが意図的にこの手法を用いているわけではありませんが、TFAが成長する上で欠かせない基本的な組織の土台づくりを担っています。

「ファンベースマーケティング」とは、従来の不特定多数のオーディエンスに向けて自社ブランドをアピールしていく考えとは反対に、一部の熱狂的なファンであるブランドパートナーに長期的に愛してもらうことを目指すマーケティング手法です。

※ブランドパートナー(ロイヤルカスタマー)についてはこちらの記事もご覧ください。
→『ブランド力を高めるための本当のロイヤルカスタマーとは?

この手法がなぜ効果的かというと、情報で溢れる現代社会において、メディアとしての人の力が再注目されているからです。

例えば、ブランドの熱狂的なブランドパートナーは、口コミでブランドの評判を広めてくれます。さらに、その熱量の高いアピールは、次のブランドパートナーを共感させ、人を起点に自然と共感の輪が広まっていきます。

紹介される側も、友人や家族からのおすすめを参考に商品やサービスを選ぶ傾向が高く、広告やプロモーションより、実際にブランドを体験している身近な知り合いの声の方が、信頼性が高く、購入に結びつくことが多いこともわかっています。

ブランドパートナーとは「企業やブランド、商品が大切にしている『価値』を支持している人」を指します。商品やサービスの実用的な価値だけではなく、その延長線上にある、別様の可能性「未来の価値」にも共感しており、そのブランドと価値を一緒に創りたいと感じてくれる人々です。

TFAは、教育機会の不平等という社会課題の解決を掲げ、同じ課題感を持つ人々との共創関係を上手く作り出すことで、多くの熱狂的なブランドパートナーを集め、持続可能な社会的インパクトを出すことに成功したのです。

出展:https://www.teachforamerica.org/what-we-do/who-we-are/leadership

2:ブランドパートナーの共感を呼ぶTeach for Americaの理念

ファンベースマーケティングが機能するためには、ブランドの価値を言語化した必然性のある「思想(理念)」が欠かせません。特にソーシャルビジネスは社会貢献が前提とされているため、どの課題に、どのような手法で立ち向かうかという思想の言語化は、通常のビジネスよりも重要視されます。

ここでは、TFAの原点、そして培われた理念を見ていきましょう。

2-1TFAの創業ストーリーとは

TFAとは、ウェンディ・コップという一人の大学生が描いた夢から生まれた団体です。

出展:https://www.princeton.edu/news/2019/07/26/she-roars-podcast-talks-teach-america-founder-about-30-years-educational-disruption

1988年、ウェンディ氏はプリンストン大学で卒業論文を書きはじめると同時に、自身の卒業後の進路について考えていました。成績もよく、課外活動でも活躍してきたのですが、就職を目前にしながら自身のエネルギーを費やせる「目的」が見つけられませんでした。

当時、プリンストン大に通う多くの大学生は投資銀行やコンサルティングファームなど、給与や待遇の良い職に就くことが多かったのですが、このような進路を選ぶ理由は「儲けるのが好き」や「金融に興味がある」というわけではなく、むしろ「その他の選択肢がない」という背景がありました。

ウェンディ氏自身も、まさに同じジレンマに直面していた学生の一人です。リクルーターとして大学に来るのは、投資銀行やコンサルティングファームをはじめ、大手企業ばかり。しかし、彼女はどうしても、それらの企業には関心を持つことができませんでした。

むしろ、彼女が大学生活を通じて興味を持っていたテーマとは、アメリカの「教育格差」でした。その原体験は入学1年目に一緒に暮らしていたルームメイトとの出会いに遡ります。彼女のルームメイトは美しい詩を書く、創造力豊かな学生だったのですが、ニューヨーク市のサウス・ブロンクスという低所得地域が出身地だったため、授業に対する予備知識が足りず、入学最初の1年間は大学の授業についていくのにやっとの状態でした。

一方でウェンディ氏は、テキサス州ダラス市という、資金的に余裕のある学区で良質な教育を受けてきたため、授業も問題なく理解することができました。生まれた場所や家族の社会的地位によって受けられる教育レベルが全く違うことにウェンディ氏は気づき、強い違和感を感じたのです。

周りを見渡してみても、彼女と同じようにさまざまな社会課題の解決に興味を持つ学生はたくさんいました。しかし、そのほとんどが半自動的に大手企業に就職したり、大学院に進学していくのです。彼女は、課題意識と仕事がつながっていないことに疑問を感じ出します。

「自分のすべきことはわかっているのに、実行できる就職先が見当たらない・・・。」

そこで彼女は考えます。「今自分が興味を持っている教育格差の是正に立ち向かえる就職先がないのであれば、組織を自ら立ち上げて、選択肢を作ればいい。さらに、アメリカ中の同じ課題感を抱く優秀な若者を巻き込むことができれば、一人でやるより、大きな社会インパクトをだせるかもしれない。」

この思想をベースにウェンディ氏は1988年の春、「教育格差」について卒業論文を書きあげます。そして、このテーマが、そのままTFAの思想となり、ビジネスモデルとなって、ウェンディ氏自身が人生をかけて解決していく使命につながっていったのです。

2-2TFAの理念(ミッション・ビジョン)とは

TFAの土台を固めたのは、ウェンディ氏が考えたミッションやビジョンの強さでした。

出展:https://www.teachforamerica.org/what-we-do/history

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*以下は正式な和訳ではなく、英語からの意訳となります。
*創業時から言葉遣い・表現は変わっています。

“ミッション”

Our mission is to build the movement to eliminate educational inequity by enlisting our nation’s most promising future leaders in the effort. We recruit outstanding recent college graduates from all backgrounds and career interests to commit to teach for two years in urban and rural public schools. We provide the training and ongoing support necessary to ensure their success as teachers in low-income communities.”

“私たちの使命は、高い潜在能力を持つ未来のリーダーを巻き込み、教育格差をなくすムーブメントを起こしていくことです。多彩な経験や興味をもつ大学卒業生が、教育困難地域の学校講師として二年間成功できるように、私たちは必要なトレーニングやサポートを提供していきます。

“ビジョン”

“One day, all children in this nation will have the opportunity to attain an excellent education.”

“いつか、この国で暮らす全ての子供が、素晴らしい教育を受けられるようになる。

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ミッションとビジョンから読み解けるのは、TFA独自の教育課題との向き合い方です。「講師を生み出す」ということは、教育を改善していくための一つの手段であり、最終目的ではありません。

任務期間は2年間。教育団員として教育現場に寄り添い、教育格差の現実を体験し、解決に当たってもらいます。その後は、教育団員が教師になることを必須とせず、自由にキャリアを選ぶ自由が与えられるのです。

社会人として過ごす最初の2年間は、キャリアを形づけるために大切な期間です。しかし、多くの大学卒業生が選ぶ金融やコンサルティング企業では、就職から2年は研修に当てられます。

この2年間をTFAの教育現場で過ごすことができれば、教育への課題感と関心が育まれ、自分の人生を考える上でも、より大きな糧なるはずだとウェンディ氏は考えました。

残念ながら待遇面などの理由で、多くの大学、特に上位校では卒業後に研究職ではなく、実際の教育現場に関わろうとする学生は少数派です。しかし、実際の教育現場を一度でも体験することによって、現場で起こっている最前線の課題の重要さを理解することができ、そこに自分が取り組むべき使命を見出す学生も少なくありません。

このように使命に目覚めた若者たちが卒業後も個々の強みや個性を活かして、継続的に教育問題へのアプローチに関わってくれるようになれば、TFAが掲げる「この国で暮らす全ての子供たちが素晴らしい教育を受けられる」というビジョンの実現にもつながっていくのだとウェンディ氏は考えています。

TFAが社会レベルで起こしたい改革とは、「ムーブメント」という言葉の選び方からも伝わってきます。TFAが描く教育改革とは、小数人で取り組んでも意味がなく、可能な限り多くの人が主体的に関わることによって、長期的なインパクトにつながっていくのです。

ミッション・ビジョン実現のためにも、TFAに関わる一人ひとりが教育の未来に背を向けず、全力で取り組んでいくことが求められています。

3:教育団員とスタッフは未来を共創するリーダー

明確なミッションとビジョンを掲げているTFA。この思想に魅力を感じ、参画している教育団員やスタッフを「リーダー」として育成することで、社会に広くTFAのミッションを広めることに成功しています。

出展:https://www.teachforamerica.org/what-we-do/impact

3-1:リーダーへの期待値が明記されたTFAのコアバリュー

TFAが掲げるコアバリューは、「リーダー」となって欲しい教育団員やスタッフの行動指針であり、彼ら彼女らが関わる人・学校・地域にどのような影響をもたらして欲しいかを明文化したものです。まずはその内容を見ていきましょう。

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以下は正式な和訳ではなく、英語からの意訳となります。

“コアバリュー”

  • Pursue Equity: We work to change practices, structures, and policies to realize educational equity for all children. As we do so, we actively examine our roles in perpetuating inequitable systems.
    公平さを追い求める:教育を平準化していくために、既存のやり方、仕組み、ルールを変えていきます。以上を進めていく中で、自分たちが思わず既存のシステムを永続させていないか、常に問います。

 

  • Strengthen Community: We assume responsibility for our collective strength by developing relationships, building diverse and inclusive coalitions, and challenging one another to be our best. We act with empathy and extend grace to ourselves and others.
    コミュニティを強化する:みんなで共に行動することから生まれる強さを認識し、他の人と強い関係性を築くこと、多様性を生かしたチームを作ること、お互いの強みを引き出すことを約束します。自分自身、相手にも共感と思いやりを持ち触れ合います。

 

  • Achieve Impact: We pursue ambitious, meaningful outcomes that lead to access and opportunity for all children. We hold ourselves to high standards, make data-informed decisions, and orient to long-term success.
    インパクトを残す:野心を持ち、意味のある結果を生み出し、全ての子供たちのチャンスへとつなげていきます。自分たちへの期待値を高く設定した上で、データをもとに最適な決断をし、長期的な成功につなげていきます。

 

  • Choose Courage: We act on our beliefs and values, especially when it’s hard. We center our efforts on the aspirations of our students and their families.
    勇気ある決断をする:最も困難な時こそ、自分たちの信念や価値観をもとに行動します。生徒、また彼ら彼女らの家族が望むことを叶えていくために、私たちは全力を尽くします。

 

  • Act with Humility: We acknowledge the limitations of our perspectives. We seek different points of view and historical context to evolve our thinking and actions.
    謙虚に行動する:自分たちの経験や考え方の限界を理解し、異なる意見や歴史から得られる知識を取り入れながら、考え方や行動を進化させていきます。

 

  • Demonstrate Resilience: We see every challenge as an opportunity to think expansively about solutions. When faced with obstacles, we deepen our resolve, adapt, and persist with optimism.
    回復心を持つ:全ての挑戦は、解決に向けたチャンスだと考えます。壁にぶつかった時こそ自分たちの決意を固め、柔軟に、前向きに進んでいきます。

 

  • Learn Continuously: We operate with curiosity and embrace new ideas to innovate and constantly improve. We take informed risks and learn from successes, setbacks, and each other.
    永遠に学び続ける:好奇心を持ち、常に新しいアイディアを取り入れることで新しい解決を創造します。必要に応じてリスクも取りながら、一つ一つの成功や失敗から学びます。

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以上のコアバリューから感じ取れるのは、教育団員やスタッフへの明確な期待です。「子供たちのために」という最終目的を見失わず、社会を変革するリーダーになってほしいことを伝えているのです。

出典:https://www.teachforamerica.org/life-in-the-corps

大学を卒業したばかりの21歳や22歳が団員として教育困難地域に一人で参入し、固定観念に縛られた学校や教員の考え方を変えること、恵まれた環境に育っていない子供たちの授業へのモチベーションを高めることは非常に難しいミッションです。TFAのスタッフも、既存の教育システムを変えていくためにこれまで長く存在してきた常識や学区のルールを打ち破っていかなければいけません。ウェンディ氏自身も、立ち上げ時に数多くの壁に立ち向かっていました。

そこで無数の困難に立ち向かうという前提の上で、その局面でどのように考え、決断し、行動して欲しいかという想いが、コアバリューには込められています。現場で起こる生きた課題に対する解決を通じて、自らの力でどのような壁も超えることができるリーダーになることを、期待しているのです。

特にTFA独自の思想が現れていると感じたのが、「コミュニティを強化する」と「インパクトを残す」の二つです。リーダーとして、関わる人と人とのつながりを強化すること、短期的ではなく長期的な変化をもたらすことが、行動指針として設けられています。

これらは直接教育には関わらない項目なのですが、組織やコミュニティといった社会に残る本当の意味での資産づくりを掲げているからこそ、TFAがこだわる提供価値なのです。

3-2:教育団員の卒業後の成果が、TFAのブランドになっていく

教育現場において変革を起こそうとしているTFAにとって、教育団員は最も大切な資産です。また、団員一人ひとりの成功は本人だけではなく、TFAにとっても非常に喜ばしいことなのです。そのためTFAは、団員の教育や成長に投資することを惜しみません。

例えば、TFAの教育団員は2年の教員期間中、以下のようなサポートを受けます。

  • 初期のオリエンテーションのほか、2年の教員期間中はリーダーシップコーチングや研修を受け続ける機会がある。
  • TFAに入団すると、各教育団員にパーソナルコーチがつく。コーチの力を借りながら2年のゴール設定を行い、自身や生徒が成功できるように導いてくれる。
  • 2年間かけて、正式な教員免許を取得することができる。興味のあるメンバーは、同時進行で修士学位を取得することも可能。

出展:”Life in the Corps” https://www.teachforamerica.org/life-in-the-corps/

以上のようなサポートシステムと、先ほどご紹介しました教育団員の「コアバリュー」を徹底してきた結果、TFAの団員は赴任先の学校からも大きな評価を受けられるようにまでなりました。

2017年に発表された提携先学校の校長からの満足度を測るサーベイでは、86%が「TFAの講師たちの成果に満足している」、90%は「TFAの講師は学校内でコミュニティづくりに励んでいる」、88%は「他の校長にTFAをお勧めしたい」という回答を得ています。


出展:https://www.teachforamerica.org/stories/what-school-principals-think-about-teach-for-america

また、現場で過ごす2年の支援はもちろんのこと、TFAは数多くの企業や大学院とパートナーシップを組んでいるため、団員は卒業時に就職カウンセラーを通して次なる就職先を探したり、改めて大学院に進学したりすることもできます。

米国議会でのインターンシッププログラム、スタートアップを始めたいと考えている卒業生に向けたコーチングプログラム、郊外の学校で教えたいと考えているアルムナイのためのリーダー育成プログラムなど。意欲の高い卒業生を支え続けるためのサポートが用意されています。

出展:https://www.teachforamerica.org/life-as-an-alum/careers-after-tfa

教育団員が赴任先の学校で成功するとTFAの評判が上がると同様に、アルムナイが教育や周辺業界で活躍すれば、TFAが究極的に叶えていきたい「この国で暮らす全ての子供たちが素晴らしい教育を受けられる」というビジョンの実現に近づくことができ、TFAにとっての成果の一つになります。

実際にTFAが設けている支援制度の結果、アルムナイはどのような活躍を果たしているのでしょうか。TFAのホームページ上では、数多くのストーリーが取り上げられています。

例えば、TFAのプログラムを通して高校生に経済学を教えていたアイシャ・デニスさんは、法が若者の人生に良い影響を及ぼせることに気づき、弁護士になることを決意。卒業後はニューヨーク大学の法学部に進学し、今は弁護士として貧困に苦しむ地域の支援を行っているとのことです。TFAを通して地域内でのリーダーシップ、困難に立ち向かう人の支え方を学んだと彼女は言います。

また、ロサンジェルスの学区で学生の自由研究をサポートしたベス・シュミットさんの場合は、卒業後に「Wishbone.org」という低所得地域出身の学生を支援する財団を立ち上げ、教育機会に恵まれていない学生を高品質なサマープログラムと繋げる活動を始めました。これは、全ての学生に均等なチャンスを提供したいという想いから生まれたものでした。

アルムナイのストーリーからわかるのは、子供たちの未来に貢献する方法は様々であり、2年間の活動を通じて、それぞれが独自の解決策を見つけ出し、実行に移すファーストステップまで踏み出せるようになっていること。

あらゆる角度から教育業界にメスを入れていくことで、アメリカ中の子供たちに平等な教育や機会を提供することに成功しています。

3-3:スタッフ一人ひとりが、TFAのミッションの伝道師

これまで教育団員の活躍を見てきましたが、続いてTFAの組織を運営する上で欠かせないスタッフの役割を見ていきます。

出展:https://www.teachforamerica.org/careers

TFAの初期スタッフは、まさに「ファンベースマーケティング」効果で集まってきた人たちばかりでした。ウェンディ氏が掲げるビジョンが知り合いの学生の間で広まり、実績も資金もないTFA10人ほどの若い大学卒業生が集まりました。

彼ら彼女らは日夜を共に過ごし、TFAが創りたい未来に向けて議論を重ね、トライ・アンド・エラーを繰り返してきました。全メンバーが能動的に集まり、ゼロから考え行動できたため、スタートアップとしては理想的な自走型組織でした。

しかしTFAの立ち上げから数年後、組織が50人ほどになった時に、少しずつ組織内の歪みが現れてきました。メンバーは自ら主体的に動かず、自分の業務を「やらされ仕事」として捉え始め、モチベーションも大幅に下がってしまっていたのです。

その状況に気づいたウェンディ氏が早々に立ち上げたのが、「リーダーシップチーム」でした。ウェンディ氏が一人で組織にまつわる決断をするのではなく、教育団員一人ひとりにミッションやビジョン実現への主体性を持ってもらえる仕組みを意識したのです。

リーダーは、TFAの目指す姿から逆算し、それぞれの持ち場で戦略や次の打ち手を考えることが求められました。この新たな責任からリーダーの中でTFAの未来への所有感が生まれ、行動に移すほか、その想いを自分のチームメンバーにも語るようになったのです。

上記は、インナーブランディングを行う際によく使用する図ですが、メンバーが経営者を見て仕事をしていると組織は、中長期的に見ても健全な組織ではありません。

本当の目的である「志」ではなく、経営者という「人」を見て仕事をしてしまうため、本質的な発想が生まれづらく、志の実現から遠ざかり、組織として長続きすることが難しくなります。

所属するメンバー一人ひとりが組織の「志」、すなわちミッションやビジョンに共感し、その実現に向けて動く組織の方が長期的には繁栄していくのです。

ウェンディ氏はそのことにいち早く気づき、組織と人の共通の目的を定め、個々がその実現に向け自分の活動を組み立てていくという仕組みを導入しました。

この人と組織の共通の目的設定をすることにより、TFAの旗印は「ウェンディ」ではなく、「ミッション・ビジョン」であり、それを実行するのは一人ひとりであるという組織のあり方が定義され、スタッフが深くエンロールされ、TFAの活動を自分ごと化することができたのです。

3-4:ミッションで仲間を集める

TFAのリーダーはもちろんのこと、組織内で働くスタッフ一人ひとりがTFAのミッションやビジョンに共感し、団体運営を支えています。

TFAが継続的に活動するためには、教育団員の安定した採用が必要不可欠です。TFAのリクルーターは、採用に関しても大きな役割を担っており、毎年数百の大学に足を運び30,000人の学生と一対一の面談をしています。

出展:https://www.teachforamerica.org/life-in-the-corps/corps-member-training

リクルーターの多くは、自ら現場で教えた経験を持つ卒業生が担当しています。実際に現場を体験してきた人たちが、TFAの意義を最もリアルに伝えられるという考え方に基づいているのです。リクルーターは、次なる教育団員を生み出すだけでなく、新たな「ファン」を増やす役割を担っています。

TFAスタッフのその他の活動は、新しい教育地域や学区への参入、資金をいただくドナーとの交渉など、多岐に渡ります。一見、当たり前のように思えるこの取り組みも、実際には一人ひとりがTFAの目的を理解し、その意義を自らの言葉で相手に伝えられなければ、実現できません。理解と共感と伝達。ここまでできるメンバーの存在こそが、TFAがこれまで仲間を増やすことができた大きな理由であり、一番の資産なのです。

4:生徒・企業・TFAが全員喜ぶ、パートナーシップづくり

最後にご紹介したいのが、TFAが資金を集めるためのスキームです。

多くのソーシャルビジネスの第一の悩みといえば、資金調達なのではないでしょうか。TFAでは、理念を軸に仲間を集め、資金を集めていくこと仕組みがとても上手く機能しているように感じられます。

TFA立ち上げ時は、ウェンディ氏を中心にスタッフがドナーとコンタクトを取り、TFAの理念と目的を訴えかけるという足を使った資金集めをしていました。

例えば1988年、TFAが産声をあげたばかりの頃、ウェンディ氏はフォーチュン誌に掲載されていた「教育改革」へのコミットメントを表明している企業についての記事を読み、挙がっていた企業に上から順番にコンタクトを取っていきました。

30社の最高経営責任者に手紙を書き、電話をしたところ、7人と対面で話すことを実現しました。その後もミッションに共感してくれるであろう人、企業、財団に繰り返し手紙を送り、実際に会ってTFAの意義を語り続けたとのことでした。

創業時に出会った企業や経営者の中には、アップルのスティーブ・ジョブズ氏、タイムマガジンのディック・ムンロー氏、アメリカンエアラインズのロバート・クランダル氏などもいたそうです。

揺るぎない信念をもとに、自ら先頭に立って行動に移したウェンディ氏や初期スタッフの努力の賜物と言えるでしょう。

出展:https://www.teachforamerica.org/alumni-paths-careers-in-business

しかし、組織が大きくなるにつれ、中核メンバーの熱量のみでは支援を継続させることは困難です。そこで、次は様々な企業がWIN-WINの関係性を持ちながら、TFAとコラボレーションできるように、「コーポレート・パートナーシップ・プログラム」をスタートさせます。

このプログラムでは、相手企業が持つ独自の強みを生かしながら、TFAが目指す教育改革を実現することができるというコンテンツ設計されています。

例えば、以下のようなパートナーシップ例があります。

  • アドビ|コンピュータ・ソフトウェア会社のアドビとは、子供の想像力や表現力を鍛えるために、アドビ関連のトレーニングプログラムやリソースを学校に提供。特にITの導入率が低い、都心から離れた学校を中心に、技術と情報を届けています。
  • サーベイモンキー|オンラインアンケート作成ツールを提供するサーベイモンキーは、サーベイ完了時にTFAへの寄付ができる選択を表示し、2011年のスタート時から$1,000,000TFAに寄付しています。
  • バンク・オブ・アメリカ|アメリカの大手銀行バンク・オブ・アメリカは、TFAが教育団員を採用・支援する活動をサポートし、教育を通して、全国で暮らす人々のソーシャル・モービリティを支えるミッションを実現しています。
  • 3M | グローバル規模の化学・電気素材メーカーの3Mとは、全国でSTEMScience, Technology, Engineering, Mathematics)教育ができる教員を採用し、長期的な支援を行うことで、学生に高品質な科学や数学の教育を届けることを目指しています。

*出展:https://www.teachforamerica.org/support-us/corporate-partnerships

以上のケースから見えてくるのは、企業がTFAにただ寄付金を渡しているだけではなく、その企業に必然性のある貢献方法がデザインされていることです。

出展:https://www.teachforamerica.org/support-us/corporate-partnerships

TFAは寄付を受ける企業の強みをレバレッジし、相手のミッション・ビジョンを理解した上で、その実現に貢献する独自のプログラムを構築することで、その企業の社会的なブランディングにつなげています。

TFAと長年グローバルパートナーシップを組んでいる郵送会社DHLでは「会社に対して社員たちの印象が良くなった」という結果が出ています。8割の社員が会社の活動を評価するようになり、社員たちも自ら国内や海外のボランティアに参加するようになったなど、社会性の文化が社内で育まれています。

出展:ウェブマガジンDRIVE(https://drive.media/posts/7316)

この取り組みの素晴らしいところは、TFAや支援を受ける生徒・教育業界だけではなく、寄付をする企業にとっても、WIN-WIN-WINな関係性を生み出していること。パートナーシップを通して企業とTFAそれぞれの強みを生かし合いながら、お互いの志を実現しているからこそ、持続可能な資金調達が可能になるのです。

5:最後に

「ソーシャルビジネス」において、明確な理念の存在は必要不可欠です。理念を軸に社会とコミュニケーションをとることで、思想に共感する仲間が集まり、熱狂的なサポーターやドナーが生まれ、社会課題の解決につながっていきます。

しかし、当たり前ですが、理念をつくれば万事上手くいくわけでもありません。

ソーシャルビジネスは、ビジネスによる社会課題の解決が前提とされているため、社会に対する自分たちの主張も明確で、共感を得られるものでなければいけません。

数ある社会課題の中で、どの課題に対して、どのような独自のアプローチを行うか。そして、なぜその課題に通り組むのかという必然性が求められます。自分たちの言葉で、行動で、仲間を集めていく。だからこそ、軸となる思想を理念として明文化し、掲げていくことが、一般的なビジネスよりも重要になってきます。

Teach for Americaの理念は、着眼した教育課題の重要さに加え、自分たちならではの思想やアプローチを明文化し、仕組み化したからこそ、人に気づき共感を与え、多くの団員、スタッフ、ドナーの行動を促すことができたのです。

出展:https://www.teachforamerica.org/support-us

地球規模での諸問題が深刻化する中で、今後は自国だけでなく、世界の社会課題を解決するソーシャルビジネスが増えてくることが予想されます。

今後は自分たちのビジネスと社会課題解決を切り離したり、どちらかだけを追うような“or” 発想ではなく、両方の課題を同時に解決させていく“and”の発想による、ビジネスの重要性はますます高まってくるでしょう。

パラドックスがVisionsを立ち上げた理由

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私たちは、この世に生を受けた人や組織にはすべて、
その人や組織にしかできない命の使い方、
つまり使命があるのではないかと思っています。

 この使命のことを、パラドックスでは「志」と呼んでいます。
私たちは、「志の実現に貢献する」というミッション、
「志あふれる日本をつくる」というビジョンを掲げ、
人と企業の志の実現にブランディングで貢献いたします。

この度は、18年間に渡り事業を行なってきたブランディングの知見が、
少しでもみなさまの志の実現にお役に立てばと思い、
このメディアを立ち上げました。

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